「好み」とは何だろう。そんな疑問にライターである著者がNETFLIXのレコメンド機能や、猫の品評会の評価基準などから「好み」について調査した内容をまとめた一冊。
結構なボリュームだが、食事、ワイン、ビール、レストランのレビューなど食事にまつわる好みを通じての内容が多いという印象を受ける。
これは食べ物の好みがほかの好みと違い五感を動員し、判断する機会も多い特別なものであること。趣味やファッション用いられる「テイスト」という表現が味覚の「テイスト」と同じ英語を用いられることに関連があると考える著者の思考の現れであると思う。
そのためあまり食べ物について興味のない読者からすると本書のページをめくる手はけだるいものになるかもしれない。
また本書は「好み」の謎を明かすための調査過程を記載しており、その内容は興味深いものもあるが(良い芸術作品を見ている時には脳がデフォルトモードネットワークの様相を示すなど)、間延びして歯切れが悪いと感じた。
著者自身、本書に記載されている「好み」の調査を通じて浮かび上がってきたものはこころもとないと述べている。
とは言え本書の「おわりに」の章では「好きになることへの実践的ガイド」として浮かび上がってきたことをまとめてくれている。
こうまとめたものを見ると、なるほどと思うものがある。
「好みは学習するもの」は特にそうだ。
最初は苦手だったブラックコーヒーやドクターペッパーも何度か飲んでいるうちに好きになった経験がある。
おそらくその際にはすぐに好きと学習したのではなく「目新しさとなじみ深さ」が作用したと思う。
コーヒーをブラックで飲めるようになる前にはカフェラテを、ドクターペッパーを飲むようになる前にはコーラを飲んでいた。
違いすぎず似すぎていないということが嫌いや拒否感を持たずブラックコーヒーやドクターペッパーを試してみる、学習するのにつながったように思う。
以下に「好きになることへの実践的ガイド」について簡潔に記載する。
著者の「好み」に対する調査過程や、以下の内容がどのような過程を経て導き出されたのかに興味をもった方は本書を読んでみるとよいと思う。
好きになることへの実践的ガイド
・人は好きかきらいかをその理由を知るより先に判断する
⇒素晴らしい能力だが、後で好きになるものを軽く見たり、好みを勘違いしたりすることにつながる。
・「好き」と「きらい」を超えよう
⇒対象をありのままに経験することを妨げてしまう。
・好きなものがなぜ好きかをわかっているか。
⇒状況や環境、期待や文化の枠組みに左右されていることがある。
・好きな理由を話そう。
⇒言語化できないために好きであることを認識できないかもしれない
・人は分類できるものを好む。
⇒分類しにくいものは好まれにくい。枠組みがないものには新しい枠組みを与える。
・安直な好みはあてにならない。
⇒分かりやすいものはすぐに好きになるが、飽きて忘れてしまう。
・見ているものを好きになるかもしれないが、好きなものを見ているということもある。
⇒そのまんま。
・好みは学習するものである。
⇒生まれついての好みはほとんどない。たいていは文化によるもの。
・私たちは好きになりそうなものが好き、憶えているものが好きだ。
⇒期待は裏切られるまで維持されるし、快楽の記憶はめったに書き換えられない。
・キーワードは目新しさとなじみ深さ、同調と差異化、単純さと複雑さ。
⇒3組の対義語それぞれのバランスが好きになる仕組みの説明に役立つ。
・好きでないものは無視されやすいが、じつは強力である。
⇒好きなものよりも好きでないもののほうが、人となりを表す。
・好みを説明することについて。
⇒何が好きかよりも、なぜ好きなのかのほうが面白い。